雨の日だって走りたい――ULTIMATE SHR、吸水速乾ランニングソックスができるまで

雨の日だって走りたい――ULTIMATE SHR、吸水速乾ランニングソックスができるまで

OLENOにはもう一つ、開発の裏側を綴った記事がある。

グリップを極めたランニングソックス「ULTIMATE ASO」誕生の話だ。今回はその続編にあたる、まったく違うアプローチで生まれた一足の物語をお届けする。

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糸を決めるということ――ULTIMATE ASOが生まれるまでの、長くて正直な話

きっかけは、雨の中を走るランナーだった。

ULTIMATE ASOが完成したあと、開発チームは次の問いを立てていた。

「ASOとは違うコンセプトの靴下を作れないか。」

グリップを極めたASOの次に何があるのか、方向性を模索していた時期のことだ。明確な答えはまだなかった。ただ、ある光景がそれを教えてくれた。

 

雨の中を、楽しそうに走るトレイルランナーの姿

だった。

 

悪天候のフィールドを走る人間は、一様に何かを我慢しているように見える。だが、そのランナーは違った。雨に打たれながら、明らかに楽しんでいた。

「雨でも走るなら、濡れてもすぐ乾いて、足のトラブルを防ぐ靴下が必要だ。」

コンセプトが決まった瞬間だった。


カリキュロとコーデュラ、二つの素材の話

コンセプトが決まれば、次は素材だ。

吸水・速乾性の高い靴下を作るために、チームはまず「カリキュロ」という素材に注目した。

吸水性と速乾性が非常に高く、濡れた状態でも不快感が少ない。雨の日のトレイルランニングに求められる機能と、方向性が一致していた。

一方で、ULTIMATE ASOの開発でも活躍した素材があった。

 

コーデュラだ。

高耐久ナイロン素材として知られ、摩耗が激しいかかとやつま先に使うことで、靴下の寿命を大幅に延ばす実績がある。

「カリキュロとコーデュラを組み合わせれば、速乾性も耐久性も両立できるのではないか。」

チームはその仮説をもとに試作を進めた。だが、すぐに問題が浮かび上がった。

コーデュラを混ぜると、吸水・速乾性が著しく落ちる。

素材の特性として、コーデュラは水を吸いにくい。それがカリキュロの速乾性を打ち消してしまった。

どちらの素材も単体では優れているが、組み合わせることで互いの長所を潰し合う結果になった。

 

チームは判断した。

メインの生地はカリキュロ一本に絞る。

ただし、摩耗が集中するかかととつま先にはコーデュラの糸を部分的に投入し、強度を確保する。

全面的な組み合わせではなく、役割を明確に分けた設計だ。

素材の可能性と限界を両方知ったうえで、設計を組み立て直した。


「どうやってテストするか」という問題

素材の方針が決まっても、次の壁があった。

雨の日の吸水・速乾性を正確に検証するには、実際のフィールドで走ってもらうしかない。工場の中では再現できない要素が、トレイルには多すぎる。

岩場の濡れ方、泥の重さ、長時間走り続けたときの蒸れ。

そういったものは、実際に走ったランナーの身体だけが知っている。

「誰に、どう頼めばいいのか。」

チームが思い出したのは、以前レースのブースで出会った人物だった。その人物が、関西トレイル界で活動するチームのリーダーだったことを知っていた。

連絡を取り、フィールドテストへの協力を依頼した。快く引き受けてもらえた。

2020年6月。吸水・速乾モデルの試走会が実現した。


「靴下メーカーの方が靴下履いてないじゃないですか」

当日、集合場所に向かっていた開発担当者は、まだ靴下を履いていなかった。サンダル姿のまま会場に向かっていた。

後ろから、颯爽と一人の男性が現れた。

「靴下メーカーの方が靴下履いてないじゃないですか。」

思わず言葉に詰まった開発担当者だったが、その男性は笑いながら言い放ち、雨で滑りやすい岩場を圧倒的なスピードで駆け抜けていった。

その走りはまるで、地面と摩擦を持たないようだった。

濡れた岩の上を、恐れるでもなく、慎重になるでもなく、ただ速く、確実に走り抜ける。

 

後にわかったことだが、その男性こそが西村広和選手だった。

のちにOLENOのアンバサダーとして、靴下の開発を共に進めることになる人物だ。


ランニング歴6ヶ月の開発担当者が、関西のガチ勢に混じって走った

この試走会には、関西トレイル界で名の知れた選手たちが多数参加していた。

だが当時、開発担当者のランニング歴はまだ6ヶ月だった。誰が有名で、誰が速いのか、正直わかっていなかった。そのまま参加してしまった。

結果として、それがよかったのかもしれない。

選手たちの肩書きや実績を知らないからこそ、フラットに話を聞けた。

「このソックス、ここが気になった」

「もう少しこうだったら」

という言葉を、素直に受け取ることができた。知識がなかった分、先入観もなかった。

 

OLENOの「ユーザーと共に作る」という開発哲学の原点が、この経験にあるとしたら、それは半分偶然の産物だった。


片足ずつ、違う靴下を履いてもらった

当日は、幸か不幸か雨模様だった。

テストには最適な条件だ。参加者に渡したのは、片足にSHRのプロトタイプ、もう片足に他社製品。同じ条件で走りながら、左右の違いを体感してもらう比較テストだ。

フィードバックを集め、改良し、また試す。そのサイクルを何度も繰り返した。

「速乾性はこっちの方が明らかにいい」「下りでの足の疲れ方が違う」「長時間でも蒸れにくい」

ランナーの身体から出てくる言葉は、数値より正直だった。


ULTIMATE SHRの完成

繰り返したフィードバックと改良の末、ULTIMATE SHRは完成した。

メイン素材はカリキュロ。濡れてもすぐ乾き、足のコンディションを長く保つ。

かかととつま先にはコーデュラの糸を入れ、摩耗に対する強度を確保した。

素材の役割を分けることで、速乾性と耐久性を両立させた設計だ。

 

雨の日の山は、晴れの日とは違う顔を見せる。樹々が水を含んで輝き、植物の匂いが濃くなり、音が変わる。それを楽しめるかどうかは、装備とスキルにかかっている。

ULTIMATE SHRはそのための靴下だ。

雨を理由に山に行かない人間に向けて作った靴下ではない。雨でも行くと決めた人間の足元を、最後まで支えるために作った。

 

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