糸を決めるということ――ULTIMATE ASOが生まれるまでの、長くて正直な話

糸を決めるということ――ULTIMATE ASOが生まれるまでの、長くて正直な話

OLENOはもともと、トレイルランニングを知らなかった。

OLENOがもともと作っていたのは、子どもの足の発育を考えた「はだし靴下」だった。

足育という考え方に共鳴し、裸足感覚で地面をつかめるソックスを目指して開発した商品。

ランニング専用でも、スポーツ特化でもない。足本来の機能を守るという思想から生まれた一足だった。

その商品に、突然物申してきた人物がいる。

あるトレイルランナーだ。

「この靴下、おもしろいコンセプトですね。でも、トレイルランナーに本当に使えるものを作るなら、もっと考えないといけないことがありますよ。」

そのひと言が、OLENOとトレイルランニングの世界をつなぐ最初の接点になった。

 

そのランナーとの対話を重ねるうちに、OLENOははじめてトレイルランニングというスポーツの過酷さと、そこで求められるギアの質について真剣に向き合うことになる。

そして彼はこう言った。

 

「もっとガチなランナーを紹介しますよ。」

 

「こんなの、グリップじゃない」

紹介された二人は、トレイルランニングの実力者たちだった。レースの現場を知り尽くしている。

 

そのフィードバックは、丁寧でもなければ遠慮もなかった。

「グリップ力が弱い。フィット感が足りない。サポート感もない。」

三点、そろってぼろくそだった。

 

当時のOLENOのランニングソックスには、足裏に滑り止めが施されていた。ただし、それは機能性を突き詰めた設計ではなかった。

染料を混ぜた素材を使い、ラメが入り、見た目としての完成度を優先していた。

 

これは手抜きではない。業界の慣習に従った、ある意味では誠実な判断だった。

ランニングソックスに限らず、靴下という商品は長年、機能とデザインのバランスを求められてきた。

「機能だけでは売れない」「見せ場がいる」という現場の論理の中で、滑り止めもまた、"見える機能"として設計されてきた。

だがそのひと言は、その論理ごとひっくり返した。

 

走っている人間が本当に欲しいのは、

写真に写る滑り止めではなく、斜面で実際に効くグリップだ。


 

モノ作りの人間が、本気を出した瞬間

その言葉を聞いて、開発担当者の何かに火がついた。

「だったら、本当に機能するものを作ればいい。」

 

妥協しない設計に舵を切った。2つの素材を組み合わせることにした。

❶ナノフロントと❷シリコンラバーの滑り止めだ。

 

❶ナノフロントは、帝人フロンティアが開発した世界最細水準の超極細繊維。繊維の断面が極限まで細かいため、素材全体の表面積が爆発的に増える。

 

 

これが、接地面との摩擦力を根本から高める。濡れた路面でも、汗で滑り始めた靴の内側でも、グリップ力が落ちにくい。

 

❷一方のシリコンラバーは、物理的な凸面をソックス表面に形成することで、さらなるグリップを加える。摩擦だけでなく、機械的なひっかかりを生む構造だ。

この二つを組み合わせ、OLENOはプロトタイプを作り上げた。

結果は、「方向性は正しかった」と言えるものだった。ただし、問題が一つあった。

 

フィット感が強すぎた。

履いた瞬間から締め付けがある。短距離では気にならないが、長時間のレースが進むうちに、足全体が疲弊してくる。

グリップは確かに上がった。でも、それを長時間維持できる快適さがなければ意味がない。

また、改良を重ねた。


六甲の山で、確信した

プロトタイプを実戦に投入する機会が来た。

六甲ファイブピークス。神戸・六甲山系の5つのピークを縦走するトレイルレースだ。累積標高、スリッピーな岩場、長時間の下り。ソックスのグリップとフィットが、真に試される舞台だった。

紹介してもらった二人のランナーが、プロトを履いてそのレースに出た。

結果は、男子1位と女子2位。素晴らしい結果だった。

これが直接的にプロトのおかげとは言い切れない。

強いランナーが強いレースをすれば、結果はついてくる。でも開発チームには確信があった。

あの足裏の設計が、斜面での一歩一歩に作用していたはずだと。

「関係していると思うのはこっちの勝手かもしれない。でも、そう思っている。」

 

その大会でもう一人の出会いもあった。ショートコースで1位を取ったランナーだ。

後にOLENOに深く関わることになる人物との、最初の接点もまたこのレースだった。


最後の調整と、名前の由来

六甲での結果を受け、チームは最終改良に入った。

課題は二点。かかと部分のナノフロントの配置と、親指外側の形状だ。

かかとは、グリップ素材の量と位置を細かく調整した。

多すぎれば違和感になる。少なすぎれば効かない。何度も試作を繰り返し、走り続けても負荷になりにくい配置を割り出した。

 

親指の外側は、耐久性の問題だった。

トレイルランニングでは、足先が岩や木の根と接触し続ける。特に親指外側は摩耗が集中しやすく、形状を変えることで破れにくさを大幅に改善した。

 

こうして、ULTIMATE ASOは完成した。

製品名の由来は、開発の過程をともに走り抜けてくれたランナーへの敬意だ。最初の批評から始まり、プロトタイプのテストに付き合い、六甲の山でそのソックスを履いてレースを走り切った。

その人物の名が、製品名の中に静かに残っている。

 

糸を決めるということ

ランニングソックスに使う素材を決めることは、単なる材料選びではない。

何を優先して、何を諦めるかを決めることだ。見た目を取るなら、グリップが落ちる。グリップを極めるなら、フィット感が犠牲になりやすい。

全部を同時に解決しようとすれば、どれも中途半端になる。

 

ASOの開発で、チームが選んだのは「機能を最優先にして、そこから逆算する」という順番だった。それは業界の慣習に反する選択だったかもしれない。

デザインの入る余地を後回しにすることを意味していた。

 

でもぼろくそ評価があったからこそ、その判断ができた。

本当に過酷な現場で使う人間からの声は、慣習よりも正直だった。

 

ランニングソックスをひとつ作るとき、その中には何人かの人間の声が入っている。

OLENOにとって、ASOはそのことを一番はっきりと教えてくれた製品だ。

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